子宮内膜症と不妊
不妊症患者の25~50%が持っていると言われる子宮内膜症は、月経痛や不妊の原因となる病気です。子宮の周囲に発生しますが、多くは卵巣に発生して「卵巣チョコレート嚢胞」と呼ばれ、さらに妊娠しにくい状態が考えられます。妊娠しないわけではありませんが、以下のような問題があります。
①自然妊娠率が低い
お腹の中に炎症や癒着が起こり、妊娠しにくい環境に変化します。その結果、卵管における卵の取り込みや 輸送の障害、卵胞の発育障害などが起こる可能性があります。
<1回の排卵で妊娠する確率>
不妊症ではない女性:15~20%
子宮内膜症の女性:2~10%
②一般不妊治療(排卵誘発や人工授精)に抵抗する
③薬物治療で妊娠率は改善しない
子宮内膜症のお薬(飲み薬や点鼻薬など)は排卵を抑制するため、お薬を使っている間は妊娠できません。
子宮内膜症の不妊治療
子宮内膜症の不妊治療には、 大きくわけて二つの方法があります。手術と体外受精(ART)です。二つの治療法を行うこともできますが、その場合はどちらを始めにするかが大事になります。手術療法とARTでは、それぞれのメリットとデメリットが異なるため、年齢やチョコレート嚢胞の状態、希望の妊娠方法などを踏まえて、慎重に治療法を選択する必要があります。
当院の治療方針
①手術が勧められる方
・チョコレート嚢胞に悪性を疑う所見がある、嚢胞が大きい(10cm以上)
・月経痛などの痛みの症状が強い
・ARTを希望しない
・ARTを先行したが、なかなか妊娠しない
②ARTが勧められる方
・①以外の方
特に高齢、不妊期間が長い、両側卵巣チョコレート嚢胞の場合には、積極的にARTをお勧めしています。
採卵前の卵巣チョコレート嚢胞穿刺術
当院では採卵時のチョコレート嚢胞の穿刺による感染リスクを低下させるために、悪性が疑われない嚢胞に限って採卵前に経腟的な嚢胞穿刺術を行っています。手技による出血や感染などの問題となる合併症はこれまでありません。