流産について
今回は【母体年齢と流産】について、解説いたします。
2008~2010年に行った厚生労働科学研究班の報告では流産の約80%に胎児の染色体異常が認められましたが、これは女性の妊娠年齢が高齢化したことにより、染色体異常による流産が増加してきていることによると考えられます。
染色体異常による流産は、たまたまその時の受精卵の染色体に異常が生じて上手く成長できなかったというだけで、一定の確率で誰にでも起こりうることです。ただ、母体年齢の上昇とともに、受精卵に染色体異常が生じる可能性は高くなります。
体の細胞は46本の染色体を持っていますが、卵子や精子の染色体は各々23本であり、受精して受精卵になると染色体は46本になります。卵子のもとになる細胞が排卵する卵子になるまで、2回の分裂(第1・第2減数分裂)をへて23本の染色体となります。
卵巣中の卵子は胎児期(妊娠5か月ごろ)をピークに減少し、閉経に至るまで増加することはないとされています。つまり、卵子は生まれたときから、女性の体内にストックされている状態で、胎児期から排卵まで何年もの間、第1減数分裂前期の途中で細胞周期が停止しており、排卵するときになって初めて減数分裂を再開し、受精可能な完成状態に変わるわけです。この分裂が停止している状態の一次卵母細胞は、体内にストックされている間、常に損傷を受けやすい状態にさらされています。年齢を重ねるにつれて、ストックされている卵子には損傷がたまっていくことになるのです。こうした損傷が、卵子の未成熟や染色体異常の原因となります。
例えば流産の主な染色体異常は、第1減数分裂の不分離で起こることが多いとされています。卵子の染色体が半分の23本(1セット)になる過程で、いずれかの染色体がきちんと分かれず、22本と24本に分かれると、その卵子が受精してできた受精卵は47本(染色体のいずれかが通常2本のところが3本あるトリソミー)となり、染色体異常をもった受精卵ということになり、結果として流産になります。
この様なことが21番染色体でおこると21トリソミー(ダウン症)となります。他にも、16番、22番などの染色体で起こりやすいとされています。
このように流産の原因となる受精卵の染色体異常は、主に排卵直前の卵子の中で起こる染色体の分配異常によって引き起こされていることが多いわけですが、これ以外に、1つの卵子に複数の精子が受精する多精子受精や第2減数分裂の異常、精子側の異常、または受精後の分割がうまくいかないことによる染色体モザイクによって生じるものもあります。
妊娠初期の流産の約80%は胎児(受精卵)の偶発的な染色体異常とされていますが、流産を繰り返す場合には、その他に流産のリスクが高まる「リスク因子」(夫婦の染色体異常、子宮形態異常、内分泌異常、血栓性素因など)を有することがあります。
つまり、2回の流産歴がある方では、80%×80%=64%、3回の流産歴がある方では、80%×80%×80%=51%は胎児の染色体異常が原因となります。
流産が続く場合には、胎児側の偶発的な染色体異常である可能性は下がってきて、不育症という病気の可能性がありますので、できるだけ早く不育症のリスク因子の検査を受け、次の妊娠に向けた準備をすることが勧められます。